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こんにちは、店主の齋藤健司です。平成25年に蕎麦きりさいとうは9周年を迎えます。これもひとえにお客さまのおかげです。本当にありがとうございました。
私の蕎麦屋としてのルーツは、何といっても両親が蕎麦屋を始めたというところです。小さなころから出汁や蕎麦は身近な存在でしたが蕎麦屋の息子にとって特別なものではありませんでしたが、幼いうちから昔ながらの出汁の味わい触れてきたことは私にとって大きな財産になりました。
私が高校3年の春休みに親が椎間板ヘルニアを悪化させてしまい、蕎麦が打てなくなってしまい、なんと一か月近く高校生の私が蕎麦を打つことになったのです。戸惑いもありましたが、私が打つ蕎麦をお客様に食べていただき「ごちそうさま、おいしかったよ」と喜んでもらえたことに私はとても興奮しました。その時の感動は今でも忘れられません。
社会人になって私はサラリーマンになりましたが、自分のお金でいろんな蕎麦屋さんを食べ歩くうちに蕎麦の魅力にどっぷりはまってしまい「いつか自分でも蕎麦屋をやりたい」という気持ちが日に日に強くなってきたのです。
サラリーマン時代の私の仕事は全国の農家、それも有機農業を実践する農家と栽培の契約をする仕事でした。農業という、もの作りの現場に通っているうちに自分自身も作り手の一員になりたいという想いが加速していきました。
「そうだ!自分の住む町に、蕎麦を食べると明日から働くパワーが湧いてくるような、そんな蕎麦屋があったら町全体が元気になるぞ」そして「伝統的な昔からの味わいを子供たちに伝えていこう」と決心しました。
6年間勤めた会社を辞めて親の店を引き継ぎました。ところが考えもしない事が起きました。少しずつ自分の理想に近付けようと改良すると、昔からのお客様に「おいしくない」と言われてしまうのです。お客様にしてみれば急に「いつもの蕎麦」が変わってしまっているのだからびっくりするのも当然です。かつて私が打った蕎麦を美味しいと言ってもらえたのも「結局は親の七光りだったのか」「自分は蕎麦屋に向いてないのかもしれない」と、とても落ち込みました。
くよくよしている私に、ある日すごいことが起きました。まるで雷に打たれるような出来事でした。日曜日のお昼時に5歳くらいの男の子を連れたお母さんが会計を済ませているときに、その男の子がカウンターに駆け寄ってきて店中に聞こえるような大きな声で「おいしかったです!ありがとう!」と言いました。小さな男の子に突然ほめられて私は照れてしまって返事もできませんでした。聞けば、その子は以前には蕎麦なんて食べなかったのが私の蕎麦を食べてから「ハンバーグやスパゲティよりおそばがいい」とすっかり蕎麦好きになってしまったというのです。
私はものすごく感激しました。子供たちに味覚を伝えていきたいと思っていたことが自分の知らないところで実現していたのです。同時に、あたまでっかちにスタイルや理屈ばかり考えていて、お客さんに喜んでもらうことを全然考えていなかった自分が恥ずかしく、自分自身に怒りすら覚えました。
その日から蕎麦屋として本当のプロになるため、そしてたくさんのお客さんに蕎麦を好きになってもらって喜んでもらうため、心を入れ替え、一からの出直しを始めました。
蕎麦屋の朝は早いです。例えば、市場へ穴子を買い出しに行って、店でさばいて出汁をとって、蕎麦を打って、お店をこなして、あっという間に営業終了、身体はへとへとです。
その合間をぬって新しい料理の勉強や蕎麦打ちの研究をしましたが疲れてくると「やっぱりムリかな~」とあきらめそうになります。しかし、そのたびにあのときの男の子の「おいしかったです!」の笑顔を思い出して頑張りました。
本当のプロの蕎麦屋になるために蕎麦に関する本を100冊以上読みました。農業関係に始まり、蕎麦の技術、そばつゆの技術、蕎麦の歴史、器の本、料理技術、郷土料理について100冊以上読みました。また、お客様が安心してくつろげる店を作るために建築や内装、バリアフリー関係の本も読みました。
そして平成16年、現在の場所に新しく「蕎麦きりさいとう」を開店しました。開店して大変なこともありましたが、スタッフにも恵まれ、家族の支えもあって、何よりお客さんから「《さいとう》にくると安心するよ」とか「このまま泊まっていきたいくらい」と言ってもらえるようになりました。海外から帰ってくると、まっさきに当店の蕎麦を食べに来てくれるお客さんもいます。また、おかげさまでテレビやラジオ、新聞、雑誌等にも多数紹介していただく機会にも恵まれました。今年は小学校から「蕎麦打ち出前授業」の依頼を受け、子供たちに蕎麦の魅力を伝える授業を行いました。私の長年の夢のひとつが実現しました。これからも地域に根ざした蕎麦屋でありたいと強く思っています。
日々の営業のなかで楽しいこともあれば辛いことに負けそうになることもあります。その度に、お客さんのくつろぐ笑顔や「おいしかった!」の声を思い出すとパワーが湧いて、よし!明日もいい蕎麦打つぞ!という気持ちになれるのです。お客さんからもらったパワー込めて蕎麦を毎日打っております。「こんなに気持ちとパワーのこもった蕎麦を食べた人が元気にならないはずがない」これは開店以来当店変わらない想いです。これからも「蕎麦を食べると明日から働くパワーが湧いてくるような店」であり続けます。それが私の使命なのですから、これだけは何としても譲れないのです。
店主 齋藤 健司
伊奈中央駅から徒歩二分、県道311号沿いのセイムスさん前 〒362-0809 埼玉県北足立郡伊奈町中央2-184
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