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旨さの秘密1 手打ちバカ!
「手打ちだから絶対美味しいとは限らない」
なんてことを言う人がいますが、じっさい私もそのとおりだと思います。でもやっぱり「さいとう」の蕎麦が旨いとしたら「手打ち」だからなんです。この「手打ち」の作業は大きく3つの工程に分けられます。
この中でも、一番大事なのは「木鉢」つまりこねる作業。蕎麦は「蕎麦粉と水」だけで出来ているから、水加減を少しでも間違えると大失敗してしまいます。たとえば水が小さじ一杯多いだけでベトベトになってしまったり、逆に小さじ一杯少ないだけでカチカチになってひび割れたりしてしまう。
この水加減っていうのはその日の気温、湿度、粉の温度、水分量、水温などのたくさんの要素によって変化します。だから「粉が何グラムなら、水はこのくらい」と決められません。これを決めるのは「職人の勘」なんです。
指先に神経を集中して「このくらいかなー?」と見極めていく。だから機械まかせになんかとても出来ません。この機能を機械に置き換えたらいったい何千万円かかるかわかりませんね。
昔から「木鉢三年、延し三月、包丁三日」という言葉があります。一見、包丁や延しの作業の方が難しそうに見えるけど、じつはこの「木鉢」の作業が一番難しくて奥が深いのです。
旨さの秘密2 製粉
石臼の回転速度は1分間に16回転。摩擦熱がなるべく発生しないようにゆっくりと回します。これだと1時間に1キロほどの蕎麦粉しか製粉できません。なんでわざわざ石臼で手間ひまかけて製粉しているか説明します。
電子顕微鏡の写真を見てください。機械製粉と石臼とでは粉の粒子の形がぜんぜん違います。機械製粉は「破壊されてる」かんじ、それに比べて石臼挽きはやさしいかたちです。じっさい石臼のほうが栄養も失われません。
ただし石臼挽きなら何でも良い粉が出来るかというとそうでもありません。石臼は石同士がこすりあっているから使っていれば当然減っていきます。当店の場合半年に一回くらいの割りあいで石臼を分解して大掃除しています。
その際に磨り減った部分をタガネという道具で叩きなおしますが、このとき叩きすぎると取り返しが付かなくなるから凄く神経を使います。がんがん叩くというよりチョコンチョコンとやさしく叩かなくてはだめで、この石臼、見かけによらず繊細でデリケート(店主に似て)なんです。
製粉がうまくできたかどうかは挽きたての粉を手でギューっと握ってみるとわかります。よく挽けた粉はしっとりとしていて手を放すと指の形が山の稜線のように鋭くとんがる。でも製粉に失敗した粉はいくらぎゅっと握ってもボロっと崩れてしまう。さっきは木鉢が大切って言いましたが、その前の製粉がきちんと出来ていないとお話になりません。
旨さの秘密3 穴子
「さいとう」で一番人気の穴子天に使う穴子は活けの穴子を毎朝締めたものを店主がさばいている。考えてみたら開店以来7年で約一万五千匹の穴子をさばいてきました!伊奈町の人口が45000人くらいだから3人に一人は食べてる計算でしょうか?
乱暴な言い方をしてしまうと、穴子天は衣をつけて油で揚げるだけの料理。だから、どれだけ新鮮で良質な穴子を仕入れることにすべてがかかっています。目利きのポイントとしては、大きければいいというわけじゃなく、頭が小さくて胴が太っていて張りがあること、側線がはっきりしていて体色が金色がかっている。
こういうのは開いて天ぷらにすると身厚でホクホクして最高です。でも、なかなか思いとおりの穴子に出会えないときもあります。そんなときは買わずに欠品。鰻と違って穴子は天然だけ、天候が悪ければ漁がないのです。
鰻といえば、鰻の旬ってじつは秋から冬ということはあまり知られていません。
もともと不味い夏の鰻を売るために「土用の丑に鰻」
というキャンペーンを平賀源内が考えたのが始まりです。
いっぽう穴子の旬はまさに初夏!
ビタミンAが豊富でカロリーは鰻の半分!
土用の丑にはむしろ穴子を食べて欲しいものです。
それと「さいとう」では天ぷらにはモンゴルの岩塩と天つゆを付けてお出ししています。
まず塩で食べてもらいたいです。穴子の香りや甘さがフワーっと口の中に広がると思う(これ最高!)。次に天つゆにひたして出汁を含ませてもいいですねー(これ天国!)。
「さいとう」の穴子天をはじめて食べたお客さまは、まずその香りに驚かれます。きっと穴子の天ぷらに対する考えがガラリと変わることでしょう。
旨さの秘密4 熟成
「一ヶ月+48時間」この数字の意味がわかりますか?
じつはこれが「さいとう」のそばつゆの旨さの秘密のカギの数字なのです。
そばつゆは決められた分量を混ぜ合わせれば出来るものじゃありません。
じつは「時間」をコントロールすることがいちばん大事なのです。
そばつゆのもとになるのは「かえし」といって醤油と味醂と砂糖を混ぜて加熱したもの。これを土に埋めた甕のなかで一ヶ月間熟成させます。はじめのうちは「甘さ」とか「しょっぱさ」「旨み」とかがそれぞれ自己主張してまとまりがありませんが、一ヶ月もするうちにだんだんトゲトゲしたかんじがなくなってまろやかになります。これが「一ヶ月」の意味。
こうして熟成した「かえし」と出汁を合わせるとそばつゆが出来上がります。「さいとう」のそばつゆの出汁には昆布と干し椎茸、それに鰹節を使います。鰹節も本枯れ節の雄節と亀節、宗田節の三種類を使う直前に店で削ります。そうして、11リットルの水が7リットルになるまで煮込みます。出来上がった出汁はものすごく濃厚でエグくて、そのままでは正直おいしくありません。
この出汁と「かえし」をあわせて加熱すると不思議なことにお互いクセの強い部分が合わさって力強い「そばつゆ」になります。昔の人は凄いことを考えたものですねー!
こうしてそばつゆが出来上がってもまだ完成ではないです。一晩寝かして次の日もう一度湯せんで加熱します。そしてまた寝かして使うのは次の日以降です。つまり二日間=48時間熟成させるということ。
正しい食材を使うことは大切。でもそれだけではダメ。そばつゆの味の決め手は「熟成」なんです!
「一ヶ月+48時間」が秘訣!
本当によくできたそばつゆは、そば湯で割っていっても最後まで上等の澄まし汁みたいに楽しめますので試してみてください。
旨さの秘密5 純米酒バカ!
「さいとう」では日本酒、特に「まっとうな純米酒のお燗を呑んでもらいたい!」と力を入れています。お燗をオススメしているのはワケがあって日本酒のおいしさが一番発揮されるのは温めたときだと思うのです。溶けちゃったアイスとか気の抜けたコーラとかって甘すぎて飲めませんよね。
あれは、冷たくすることで本来の甘さをごまかしているからなんです。だから日本酒も冷たくしてしまったら、もともと持ってるおいしさの成分が隠れてしまいます。これってとてももったいない!もっとも、ダメな酒に限って冷たくして飲ませたがるんだけど…。
多くの蕎麦屋さんが「蕎麦の邪魔をしないように」って端麗な酒(味の薄い酒)を提供しています。でも、蕎麦と酒の間にはそばつゆというつなぎ役が居るのを忘れてやいませんか?「さいとう」では、冷たい蕎麦のもり汁も温かい蕎麦のかけ汁も、それぞれに合わせて鰹節の種類や醤油の種類も変えています。この「つゆ」の味わいを引き立ててくれるのが純米燗酒なのです。つゆだけでは気が付かなかった味わいも純米燗酒と一緒に味わうとドンドン旨さが広がります。
ワインの世界ではワインと食材の組み合わせをマリアージュなんて言いますが、蕎麦屋で飲む酒にもそれに似たものがあるのです。だから、「さいとう」の純米燗酒はそれを単品で味わうよりも食事のおいしさを広げてくれる食中酒として呑んだほうが何倍も旨いです。例えば鴨南蛮のつゆをつまみに呑んだっていいですし、蕎麦湯を飲みながらもう一杯なんてのも楽しいですね!
また「さいとう」の店主、つまりボクですが、年に一回、奈良の久保本家酒造にお邪魔して泊り込みで蔵の仕事を手伝わせてもらっています。日本酒造りの工程ってものすごく複雑でちょっと蔵見学したくらいでは全く理解できない。
5年通ったけどまだまだわからないことばかりです。ひとつ言えるのはまっとうな純米酒を造るには手抜きはいっさい許されないっということです。どこかでズルをしたらたちまちダメな酒になってしまいます。これって自分の蕎麦にも言えることなんですね。
旨さの秘密6 農業バカ!
「耕作放棄地」っていう言葉を聞いたことはありますか?
文字どおり耕作を放棄してしまった田んぼや畑のことなのですが、これが現在日本中で増え続けていて、2010年では39万6000ha…ってどのくらいかわかりませんね。
じつは平成21年から(蕎麦は22年から)長野県小海町で小麦と蕎麦の栽培を始めました。標高700メートルで蕎麦の栽培にはとても適した最高の畑なんですが、高齢化、後継者不足、そして減反などで山奥の小さな畑をやる人が居なくなっています。小海町だけでも現在約100ヘクタール(東京ドーム22個分)の農地が耕作放棄されていて、そのうち30ヘクタールはすでに森になってしまっています。
別に「さいとう」だけが頑張っても日本の農業がなんとかなるわけではありませんが、蕎麦栽培に適した畑が無くなっていくのは我慢できません!そこで畑を4反(1200坪)ほど借りて蕎麦を作り始めました。
実際に蕎麦の栽培はそれほど難しいものじゃありませんが、蕎麦栽培は…
「草と鹿と暑さとの戦い!!」でした!!
草の生える勢いはまるで「風の谷のナウシカ」の腐海のようだし、津波のように押し寄せてくる草を炎天下、刈り続けました。
鹿が増えて農作物を食い荒らすというニュースは聞いて知っていましたが、本当に自分が育てている作物が食われると心の底から怒りがこみ上げてきます。この鹿を防ぐために畑の周りに柵をめぐらしたりするのも大変な労力なんです。本当にオオカミを山に放せばいいのにと本当に考えてしまいます。
たった4反の畑を守るだけでも大変な作業なんです!蕎麦を自分で作ることが「旨さの秘密」ではありませんが、このまま国内で蕎麦を作る人が居なくなってしまったら蕎麦屋自体が成り立たちません。将来のためにもなんとかしなくちゃいけないことなんです!
伊奈中央駅から徒歩二分、県道311号沿いのセイムスさん前 〒362-0809 埼玉県北足立郡伊奈町中央2-184
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